分かりきってるよ、想い続けることが無意味だなんて。
ダーリン・ダーリン
あたしの好きなヤツ。
その名は跡部景吾。
生徒会長をやってて、そんでもってあの200人を抱えるテニス部の部長。
当然のごとくあいつは人気があって、ファンの数なんていちいち数えてらんないくらい多い。
あたしも、言わばその内の1人。
ただ他の子と違うのは・・・あたしは跡部に嫌われているということだ。
素直じゃないし、顔を合わせれば喧嘩ばっかり。
だからあいつも、他の子の時よりもあたしと接する時の方が冷たい。
しょうがない。もう、後戻りなんてできないし。
可愛くないあたし。もっと自分の想いを素直にぶつけられたら・・・。
少しは違ったのかもしれない。
「邪魔だ。退け。」
「自分で退いたら?ちゃんと2本の足がついてるじゃない。」
「俺様はお前に退けと言ったんだ。」
「お坊ちゃまは自分で何も出来ないの?まぁ・・・そんな風に育てられたんだから仕方ないのかもしれないけど。」
「チッ・・・。胸くそ悪ぃ。退いてやるよ、お望みどおりにな!」
頬を赤らめて、ちゃんと目を見て、跡部と話せたらどんなに幸せだろうか。
粋がって、相手の気分を悪くさせて、どんどん嫌われて・・・。
そうやってもう2年以上。
今更可愛い女にはなれない。
嫌われててもいい。
だけどどうか・・・あいつと話す機会をあたしに与えてください。
どんなに薄汚れた内容だとしても・・・
あいつとあたしを繋ぎ止める理由を与えてください。
「はぁ・・・。」
「溜め息なんてつくと幸せが逃げんで?」
「幸せなんて最初からないんだから逃げるものなんてないよ。」
「せっかくの美人が台無しやな。」
「お世辞はいーの。最近彼女とどうなの?上手くやってる?」
「それが昨日振られてしもたわ。『他の女と話すなんて最低!!』やて。」
「慰めないよ?どうせすぐに新しい彼女が出来るんだから。」
「が彼女やったらええんやけどなぁ。」
「こっちが勘弁だっつーの。」
こいつ・・・忍足侑士とは割と仲がいい。
気心知れてるっていうか、気を遣わなくていいから一緒に居て楽だ。
話も合う方だし冗談もそれなりに言う。
ただ・・・女にだらしがないのは好きではないが、あたしがどうこう言う問題でもないし気にしないことにしてる。
忍足のことが好きだったら、こんなに苦しまなくて良かったのかもしれない。
それなりに色々と話せるし、大体喧嘩なんて全然したことがない。
そうやって思い知らされるのが、跡部とあたしは最悪の相性だということ。
それを知ってて諦めようとしないあたしはどうかしてる。
どうしようもないくらいに好きなのに・・・。
どうしようもないくらい辛い恋。
諦めたらそれで負け。
だからあたしはイヤになるくらい想い続けてる。
「忍足、ここでサボるなんていい度胸じゃねぇか。俺様の場所だと知らなかったわけじゃねぇだろ?」
「ここはみんなの屋上や。な、。」
何であたしにふるかなぁ・・・。
あたしが加わっても状況が悪化するだけなのに。
「何だ、お前も居たのかよ。」
「居てスミマセンね。」
ほら、ね。
予想通りあたしを見つけた跡部は嫌そうな顔をする。
あいつがする行動なんてバレバレだっつーの。
伊達に2年以上想ってるわけじゃないし。
「どこ行くんや?」
「移動すんの。あたしが居ない方がいいみたいだし。」
「よく分かってんじゃねぇか。」
「だってさ。坊ちゃんが機嫌損ねない内に退散するよ。」
「誰が坊ちゃんだと?もう1度言ってみやがれ。」
「あんたのこと言ってんだよ。もういいでしょ?あたし移動するし。」
そう言ってあたしは強く屋上のドアを閉めた。
何やってんだろ、ホント。
ちっとも進歩しないんだ、あたしは。
忍足みたいに、何でも打ち明けられるような仲だったらいいのに。
彼女にしてくれ、なんて図々しいことは言わない。
せめて普通の関係に。
他の子と同じように平等に。
あたしの叶わぬ、小さな願い。
「ー!!おーいー!!」
「忍足・・・あんた何してんの?」
「何って追いかけて来たんやろ!!」
「あたしを?何で?」
「跡部は・・・あんなんやけどええヤツやから。それだけは覚えといてな?」
「それはあたし以外の人の前で・・・でしょ?いいよ、気を遣わせてごめん。」
「あぁ、ちょお待ちや!!」
「想いすぎるが故に届かぬ想い・・・・か。上手くいかんもんやな、恋っちゅうんは・・・。」
「ついてない・・・。」
夕方から降り出した雨。
止むどころか、おさまる気配さえない。
生憎、当番の仕事が長引いて遅くなり、辺りには誰も居ない。
そうしてもう30分以上経っていた。
「仕方ない諦めるか・・・。」
酷い雨の中を、走るわけでもなく歩いていた。
どっちみち濡れるんなら走るのは疲れるだけで体力の無駄。
不幸中の幸いというべきか、あたしの家は学校からそう遠くない。
濡れるのはしばらくの我慢、風邪を引いたなら学校を休めるしそれでいい。
服がべったり引っ付いて気持ち悪い。
夏服だし、ブラ透けてるかもしんない。この雨じゃ誰も見てないとは思うけど。
「お前・・・何してんだよ。」
「跡部・・・。」
高級そうな車から顔を出したのはあたしの想い人。
それに引き換え、無様な姿のあたし。
出来ればこんな姿、見てほしくなかったな・・・。
「窓、閉めなよ。雨が入るし。」
「ずぶ濡れのヤツを放っておけっていうのかよ。」
「家近いし気にしないで。じゃあ。」
「おい!!」
腕を強く掴まれた。
跡が残りそうなくらい、強く。
振り返ったときに見たあいつの顔は、心なしかいつもより優しくて、ドキッとしてしまった。
「痛いよ・・・。放して。濡れるって・・・。」
「いいから乗れ。」
そのまま腕を引っ張られて、あたしの身体は車の中へ引き込まれる。
おかげで車の座席はずぶ濡れ。
変なトコで優しいんだから・・・。
「あーあ・・・。車の中めちゃくちゃじゃん・・・。」
「フン・・・。」
「知らないから。弁償できるほど裕福じゃないし。」
「別に弁償してもらう程困ってねぇよ。」
「・・・あ、あたしの家この辺だから・・・。」
「そうか。おい、ここで止めろ。」
ホントに家は近いから車に乗ってすぐに着いた。
もう少し一緒に居たかった、なんて女の子らしいことを思ってみたり。
「ありがと・・・。」
「お前の口からそんな言葉が聞けるとはな。」
「人が素直に謝っておけば・・・。」
「フン・・・いつもそうしてりゃいいんだよ。」
「少なくともあんた以外の人の前では素直だからいいの。」
「それが気に食わねぇんだよ。」
「はぁ?」
頭打ったのか、こいつ?
気に食わない?何が?あたし自体が?
それはもう救いようがない・・・。ま、救われようとも思ってはないけど。
いつになく真面目な顔しちゃって、照れるじゃん・・・。
あたしは慣れてないんだってば。
不機嫌そうな顔や見下したような顔のあんたしか知らないから。
「いいか。今後一切、俺以外の男に色目は使うな。」
「そもそも色目なんて誰にも使ってないって。」
「俺だけを見ていろ。これは命令だ。」
「・・・従う理由がないんですけど。」
「雨の中、可哀想なお前を助けてやったのは誰だったっけな?」
「助けて欲しいって言ってないし。」
「素直じゃねぇな・・・。そんなところも好きだがな。」
「はぁ!?/////」
「今日から・・・いや、ずっと前からだな。お前は俺の女だ。いいな。」
「跡部・・・・暑い・・・。」
「ホンマやで・・・目の毒や・・・。」
あたしは忍足と屋上で話していた。
するといきなり跡部が後ろから抱き付いてきた。
忍足が居るっていうのに、あいつは何食わぬ顔であたしの髪にキスを落とす。
そりゃあ嬉しいけど・・・それ以前に恥ずかしい。
昨日の告白めいた発言に続き、この行動。
あまりの豹変振りに、1番驚いているのはあたしだ。
「跡部・・・だから暑いんだって。ちょっと離れて?」
「・・・・・・。」
人の話をまるで無視して、片手であたしの髪をくるくる巻き始めた。
あたしは忍足に助け舟を出す。
「忍足・・・見てないで助けてよ・・・。」
「お前・・・邪魔したら分かってんだろうな?」
「あー・・・はいはい。俺は退散しますって。」
「ちょ!?忍足!!逃げんな!!」
「そんじゃあお2人さん、幸せにな。」
あの裏切り者・・・。あたしを捨てていきやがった・・・。
2人きりにしないでよ。
こんな跡部じゃ、調子狂うじゃんか・・・。
跡部の顔が肩に乗る。
抱き締める強さが増す。
どこにも逃げられないくらい強く、だけど・・・優しく。
「愛してるぜ、・・・。」
「ばーか・・・早く言いなさいよ・・・。」
すれ違った分だけあたし達は至極の愛を手に入れる。
手に入らなかった期間を埋め尽くすかのように。
彼の素っ気ない態度は、分かり辛いあたしへの愛情表現。
他の誰とも違う、あたしに向けられた特別な感情。
あたし達はお互いに素直じゃなかっただけ。
それが分かった今なら、恐れるものは何もない。
◇◇
あとがき
かなーりリクエストと異なっているような・・・。
甘いのは苦手なんでしょうか・・・。